往年のプログラムより:「松田 伊三雄」先輩

(無題)

慶応マンドリンクラブ60周年、おめでとう。 音楽のたのしみ、ことにみずから楽器を抱いて青春のよろこびを掻き鳴らす醍醐味を、私も塾生の頃、心からたんのうしたものであります。

爾来既に半世紀、世はさまざまに移ったが、顧みて、青春につながるマンドリンの思い出は、私の心を若く明るくさせてくれます。 演奏旅行のたのしさなど、思いいずるままに思いだしてゆけば限りありません。

青春を健やかに育んでくれたもの、心を高めてくれたものとして、マンドリンの思い出を持っていることは、私にとっては何物にもかえがたい幸福、私のもっとも誇るべき幸福の一つではないでしょうか。

しかし、マンドリンクラブの歴史も、いつも順調とのみはいえなかったでありましょう。 時の流れの中に、あえぐように維持されていた時節もあり、それらの苦しみを乗り越えて、マンドリンにつながれてきた愛情のことなども、この際、考えてみることも意義深いと思います。 60周年のお祝いを心からよろこび、これからの健全な発展をお祈りしたい気持でいっぱいであります。

名誉会長 松田 伊三雄((株)三越社長)
<1970年(昭和45年)11月「第105回定期演奏会」プログラム冊子掲載>