往年のプログラムより:「池田 弥三郎」先生

無題

マンドリンクラブというのは、わたしの学生時代にも盛んだったクラブで、長い歴史のあるクラブだとは承知していたが、六十周年と聞いておどろいた。 わたしが生れる前からあるわけになる。

音楽は好きだが、演奏などは、ハーモニカもふけないわたしだから、マンドリンクラブとは、まったく縁のない学生だったが、 しかし、同年生にメンバーがいて、よく演奏会にいかされた。 日比谷公会堂が、まだ出来たての頃だったように思う。

学生ことばでは、省略語を好んで使うので、マンドリンクラブは「マン・クラ」になる。 そういう風に言うのを聞いたことがあるが、それはセンスがなさすぎる。 体育関係では、アメリカン・ラグビーを「アメ・ラグ」と言ったりするが、それは文学芸術に関係のないスポーツだから、 ことばのセンスはラフでもいいが、それでも、ピンポンクラブが「ピンクラ」では、ピンクルみたいでおかしい。 落語研究会は、落研を、「ラクケン」と言わずに、「オチケン」と称して、落語家の見識(?)を示しているが、 何としても、音楽愛好家の集まりである、マンドリンクラブのメンバーは、長い歴史の誇りとメンバーのセンスとにかけて、 マンクラなどという、不完全言語は、使わないでもらいたいと思う。

顧問 池田弥三郎(慶應義塾大学教授)
<1970年(昭和45年)11月「第105回定期演奏会」プログラム冊子掲載>