第 100 回定期演奏会の思い出
大竹 広明(昭和 44 卒 OB)

「半世紀以上の歴史を持つ KMC の 100 回演奏会に現役で巡り合えるとは、なんと光栄な事だろう。加えて運が良ければアメリカ演奏旅行にも行けるかもしれない。」慶応高校で 3 年間マンドリンクラブに在籍していた私が、大学に入っても KMC を継続した動機です。

昭和 44 年秋の第 99 回定期演奏会、そして 12 月のクリスマスコンサートを終え 4 年生を送り出し、いよいよ来年に向けての準備が始まりました。何十年に一度の大イベント、100 回記念定期演奏会の企画会議が服部先生のご自宅で開かれました。 先生からは定演の前に前夜祭をやろう、沢山のゲストをお招きして前夜祭で盛り上げてその勢いで本番になだれ込もうとの骨組みが示されました。
そのころ定演では OB の有志も合奏に加わり、それはオール KMC の総合力を誇示することでとても温かい習慣だったのですが、一方で「半年間の練習を重ねて磨き上げてきたのにほんの 1 回か、あるいはぶっつけ本番でステージに上られた OB が合奏を台無しにしてしまう」という不満もありました。
そこで前夜祭では OB、OG で組織した三田マンドリンクラブの単独ステージを設定し、定演では現役だけの演奏にするという学生の意見を通すことができました。
前夜祭のゲストには大崎幸子さん、加藤登紀子さん、立川澄人さん、戸田政子さん、真理ヨシコさんといった KMC には馴染みの深い方、司会には三国一朗さんという服部先生ならではの人脈で、そうそうたる方々をお迎えすることができました。
記念すべき定演の最終曲は服部先生の若いころの作品「絵本街景色」に挑戦する事が決まり、はて女性歌手を誰にしようと、服部先生が考え込まれました。いつもならトントンと候補が出てくるのに、間が空いたので「先生、昔童謡歌手をしていた安田祥子さんなら姉の友人なので頼めます」と提案したところ、「それがいいねえ」と即決。すぐご本人にお願いして出演していただくことになりました。
今は妹の由紀さおりさんと童謡を歌い継ぐ活動で有名ですが、安田さんは芸大大学院声楽専門研究科を修了された本格的なソプラノ歌手です。本番では不思議な旋律が連なる絵本街景色を見事に歌い上げ、101 回定演ではミュージカルファンタジー「シンデレラ姫」もお願いすることになりました。
さて年が明け、春休みの伊豆合宿では合奏練習とは別に、前夜祭と 100 回定演の役割分担を 1 年生まで全部員に割り当て、全員の総力で一大イベントに取り組む体制が出来上がりました。

プログラム作成を任された部員はこの時とばかりに、制作に精魂を込め、前夜祭、定演の演目、出演者紹介、各界のお祝辞に加え、KMC の歴史と年表を 16 ページにわたり記述、加えて服部先生と主要な OB の方々との座談会も収録し、貴重な資料となりました。
松田伊三雄先輩が社長を務められた三越さんからは協賛として裏表紙全面に広告をいただきました、黒く重厚な裏表紙の中央に直径 21 ミリの金で押した三越マーク。おしゃれなレイアウトは今でも語り草です。

5 月 25 日午後6時、渋谷公会堂で前夜祭が華々しく幕開けしました。第 1 部は慶応高校女子高校、志木高校、大学、三田マンドリンクラブの単独演奏、中等部を交えての合同演奏。第 2 部は多彩なゲストの競演、最後にはゲスト全員がステージに勢ぞろいして、高らかに KMC ソングを歌いあげていただきました。

6 月 9 日は待ちに待った第 100 回定期演奏会の日です。文京公会堂で午後 1 時 30 分と 6 時 30 分の二回公演。お蔭様で二回とも客席は満員の盛況。「若き血」に続いて服部先生がこの日のために作曲された「記念演奏会用前奏曲」。2 名のトランペット奏者が吹奏する華麗なファンファーレが 2 階客席から会場一杯に響き渡ります。オリジナル曲の第 1 部に続き第 2 部では、KMC の大先輩で NHK 交響楽団の首席奏者を務められた吉田雅夫さんをお招きして、フルートのソロと語り。そして第 3 部はクラシックの名曲に続きフィナーレは「絵本街景色」。安田祥子さんのソロに藤原歌劇団の合唱が花を添えてくれました。

演奏会終了後の 2 階ロビーではそれぞれの役目を終えた部員が集合。大きな仕事を果した人たちが思いをひとつにして成功の感激を味わいました。部員 134 名に加えて演奏された中等部から OB、OG にいたる 200 名の方々、そして KMC をサポートしていただいた多くの皆様のおかげで、第 100 回定期演奏会は無事に幕を閉じる事ができました。

長い歴史を刻んだ KMC は 2018 年には 200 回の定期演奏会を迎えます。人は変われどマンドリンオーケストラに傾けた情熱は変わらない。運営に携わる多くの方々が大成功の美酒を味あわれることを心から祈ります。